「しかしほんとうに新刊が出るなんて。6年ぶり(!)の続巻は自分にとって大げさでなく2025年最大のトピックだった。いいエンターテインメントは、いまの読者にとってリアルで今日的な人間関係の機微を、時代背景をズラすことで『お話』(tale)として描いたりする。あるいは地理を変えてみたり。そういうエンタメ作品に接したときに『昔の話っぽいのにリアル」「遠い国の話なのにすっごくわかる」というある意味で陳腐な感想が引き出されたとしたら、それはだいたい作り手の『勝ち』だ。街に路面電車が自然に走っていた時代を舞台に、恋愛小説家とカフェの女給のすれ違い恋愛をじれったく、湿度たっぷりに描くこのマンガもその一翼だ。感情の揺れを押し隠し、無風無音をてらい、内面の混乱を取り繕い、平静平穏を装う態度が正しいとされる現代の世の中ではみんな避けがちな、剥き出しの感情描写が白々しくならないのは『昔のお話』の体裁をとっているところが大きいと思う。そんな心のひだを濃厚に塗り込める作画にもほれぼれする。ページをめくるのがもったいないほど、一コマずつじっくりと読み進めたいし、何度でも読み返したい。オトナの恋愛もの(連載はモーニング・ツー)なので、描写が高潔とは言わないが、下品なところはかけらもない。なので、まだ恋愛も性愛も知らない子どもたちに(も)、こっそりと隠れて読んでほしい大人のためのマンガだと思います。」
「自分も気づけばどんどん六朗の年齢に近くなっていた。六朗の溢れんばかりの情熱が羨ましく感じる程に、随分と歳をとっていた。タイトルの通り官能的な表現もあり、読む人を選ぶ作品かもしれない。でもこの素敵な作中の世界観や、美麗な作風に触れていると。どうにかなってしまうほどの恋をしてみたかったなぁ、とつい思ってしまう。」
「もう続きは出ないのかもしれないと思っていたので、紙で出てくれただけで有難い限り。恋い慕う相手を思う中にどうしても湧き起こるやましさを、不純と取るか官能と表現するか。文学的とも称されるけれど、時折ハッとするようなシーンが差し込まれて、漫画ならではの読書体験ができる名作だと思います。」