選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2026一次選考作品

『絵師ムネチカ』さそうあきら

  • 「汚いもの、不快なもの、目を背けたくなるようなものを、さそうあきらは真っ直ぐに見つめる。予断を交えず、世の中の常識なんかにはとらわれず、そこにあるものをそのまま、あるがままに描写する。そうすることで、美しいもの、大好きなもの、うれしくなるようなものがいっそう輝きを増して目の前に立ち現れる。本作もそんな『さそうマジック』があふれている。この作品は、天才的な絵の才能を持つ高校生男子ムネチカの、その天才ゆえにはた目には奇行にしか見えない一途な行動と、周囲の好奇の目などものともしない果てしのない高揚と、それとは裏腹に静かに漂う生きものとしての哀しみを、クラスメイトたちをはじめとする周囲の人々(=凡人)の視点であぶり出す。紙に線で描かれたただの絵と物語なのに、同じく凡人のわたしは読むにつけ右に左に、縦横に、気持ちを揺さぶられ、名状しがたい感情の渦に巻き込まれて心を震わせる。完璧な才能を持つものは本質的に空虚であり、その存在は(不完全で平凡な)人間がそれゆえに持つ愛すべきおかしみから遊離してただの『媒介』としてしか存在し得ないのだ、という境地を、さそうあきらは繰り返し描いてきた。ただし、そこにとどまり、それでよしとするのではなく、そんな器のような存在が別の何かによって満たされる様子を見たい、という願望に、作者はずっと突き動かされているように思える。満たされてしまえば天賦の才は泡と消える道理。天才が立ち尽くすそんな瞬間の哀しみと歓喜を、一編の映画のように、冒頭から終幕まで駆け抜けるように描くのも、これまた天賦の才がなし得る偉業に違いない。」

▲ ページの先頭へもどる