選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2023一次選考作品

『数字であそぼ。』絹田村子

  • 「読めば抱腹絶倒の学生生活を楽しめる。同時に数学の奥深い世界にも触れられる。そんなマンガだと去年も紹介した絹田村子の『数字であそぼ。』 (小学館)を今年も推す。変わり者ばかりの出てくるキャラクターたちは最新の第8巻でも健在だ。暗記が得意でその能力で京大がモデルの吉田大学に入学してしまった主人公の橫辺建己は、入学早々に数学の講義で訳が分からず引きこもりになって、2年間を無駄に過ごしてしまうが、そんな彼ですら普通に思えるくらい、ヘンなキャラクターたちが登場しては、大学生活を送りながら直面するさまざまな現象に数学で立ち向かう展開を楽しめる。横辺の引きこもりを決定づけたくらい天才的な数学センスの持ち主ながら、住んでいる部屋はゴミで埋まり、合コンではイケメン男子に微積分の議論をふっかける夏目まふゆは最新刊ではどちらかといえば脇役。その友人で神社の娘で巫女をしていて見かけはとてつもなく美女の平坂世見子が、第8巻では割とフィーチャーされて登場する。縁結びに押し寄せてくる参拝客の女性が使っていると聞いた世見子が、マッチングアプリを試すエピソードで、どれくらいの人と会えば良縁を得られるのかを何と数学で検討してのける。100人が面接に来る秘書の採用試験で、落としたら絶対に採用せず、採用が決まったら後は面接をしないという条件の場合、どこまで落とし続ければベストな結果が得られるのかという問題を敷衍して、30人くらいは会い続けろという結果が出た。だったらと従った世見子に訪れたピンチに、仲間たちがかけつけるところは実に青春。その意味では立派に青春コミックだとも言えるし、実際によく行くインド料理屋の交換ノートで数式のやりとりをするようなエピソードも、青春なら夢が感じられる。もっともその相手が誰か判明した段階で絶望の縁へと叩き込まれるが。リボ払いがもたらす恐怖や、手持ちの資金をただ貯めておくだけでは無意味だといった示唆もあって、お金の使い方も学べる経済コミックとも言えそう。商売をしている店が、数字に厳密な客を相手にどのような態度をとればいいかも教えてくれるけれど、その通りで果たして大丈夫なのか。通用するのは数学者だけではないのか。ちょっと試してみたくなった。とりあえず世見子に幸せを。」

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