選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2022一次選考作品

『龍と苺』柳本光晴

  • 「まさか四冠になってしまうとは思わなかった藤井聡太竜王の誕生で、大きな注目を集めた竜王戦で戦っている女子中学生がいると言ったら果たして信じてもらえるだろうか。もちろんフィクションだが、それですらあり得ないと思わせることを不思議と納得させられる描写で繰り広げているところが、柳本光晴『龍と苺』の凄いところだと言えるだろう。クラスメートにいじめを繰り返していた男子生徒を、椅子で殴り倒した14歳の女子中学生、藍田苺を元校長で今はスクールカウンセラーをしている宮村が将棋に誘う。金や銀の動かし方どころか、駒の並べ方すら知らない将棋のド素人だったはずだったが、少し教わっただけで将棋の根本を理解して、熟達者の宮村を追い詰めていく。そして始まる苺の快進撃。とにかく圧倒的な強さを見せて上級生を破り女流棋士を破りアマ竜王から竜王戦の本選へと出て目下並み居るプロ棋士たちを相手に勝利を重ね続けている。追い込まれても決して諦めない根性。常識にとらわれず徹底的に考え抜く執念。それらが奇行ぶりとは裏腹の天才性を裏付けして、苺だったら勝ち続けても不思議ではないと思わせる。もっとも、さらに上位のプロ棋士には負け続けてるところは、将棋の世界が生半可ではないことを教えてくれる。何しろ苺に負けないくらいの奇行者ばかり。そんな相手にたどり着いて撃破する日が来るのか。それ以前に一度は挫折を味わってからの再帰へと至るドラマが繰り広げられるのか。臥薪嘗胆が似合わないキャラクターだけにどんな展開を見せてくれるかが楽しみで仕方が無い。 その活躍に刺激され、藍田苺のような将棋指しが現れ、現実に未だ誰一人として存在していない女性のプロ棋士になって欲しいと思いながら読んでいこう。」

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