選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2022一次選考作品

『スインギンドラゴンタイガーブギ』灰田高鴻

  • 「特別なテーマでも、新鮮なストーリーでもなく、しかし時代風景がとても色濃くて印象的な漫画でした。この漫画の凄さは、第二次世界大戦後の混乱と、社会復興に向けた日本の姿をいとも簡単に想像させるところです。音楽ものの漫画ではありつつ、というよりかは、音楽によって人が集まり、時代があり、それらが絡み合うことで展開されていく人間ドラマが描かれたマンガです。」

    「ジャズものだけに、どうしても石塚真一の大傑作『BLUE GIANT』シリーズと比較してしまいますが、驚くべきは、この作品が決して負けていないこと。『BLUE GIANT』にないモノが本作にはあります。それは、とらちゃんの歌い踊る色っぽさ、問答無用のスウィングの楽しさ。ダイ、君のサックスに欠けているのはコレかもしれない。いや、君には君の良さがあるんだけどね......。 などと、キモく、ブツブツつぶやきながら読みました。全6巻で終わったのも潔い。キャラクターはアニメ風(細田守風?)なのに、バックや楽器は黒々と『つげ忠男風』というのも新しい。令和で、本来の意味の『劇画』の逆襲が始まっているのかもしれないと、ちょっと思いました。」

    「敗戦後の混乱がまだ残る世相を背景に、ジャズにとりつかれたミュージシャンたちの喜怒哀楽むき出しの眩しい若さと、音楽の楽しさを描く。貧しくても前向きな感性とプライドがある。江利チエミに雪村いづみと美空ひばりを混ぜて割らず(キャラクター的には笠置シヅ子もか)、さらにいろいろ足したような、おきゃんでかわいい天才少女歌手・諏訪於菟(すわ・おと、愛称トラ)がなんともいえず魅力的で、この時代の日本を舞台にしてしか描けないヒロイン像かと思われます。昭和のある時期までたいへんやばかった『芸能界』の虚々実々も楽しく読ませる。読めば『あの時代』の明るい雰囲気にとっぷり浸れるのに、単行本に重版がかからないらしいのはとても残念。いろいろすっかり元気をなくしてしょぼくれてしまった日本にも、数十年前にはこんな『元気』が横溢していたんだ、となんだか背中を押される気にもさせられた全6巻です。」

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