選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞

『虫と歌 市川春子作品集』市川春子

  • 虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)

  • 「繊細な表現と、独特の世界観。素晴らしい。」

    「愛別離苦。そして生老病死。人として生まれたからには、避けることのできない
    苦しみだと、仏教に言われてきたこれらはけれども、人に限っての苦しみではな
    いく、あらゆる生けとし生きるものたちすべてが感じ、想い、味わって嘆く苦し
    みなのだということを、教えられる短編たちを集めた作品集。収録作品のいずれ
    にも、人ならざるものたちが関わった、出会いの愛おしさと別れの切なさ描かれ
    ていて、哀しみ苦しみの情感を強く抱かせられる。表題作の「虫と歌」は、描か
    れた静かな離別に涙しつつ、描かれなかった苦しさに満ちていただろう離別に、
    行く側、残される側の抱いた苦衷を思って、どうして止めなかったのだ、どうし
    てはじめてしまったのだと糾弾したくなる。けれども、「生まれてきてよかっ
    た」。そんなひとことが救いとなって、沈んでいる心に一筋の光となって差し込
    む。免罪符とはせずとも、動機にはできるその言葉を心に刻むことで人は、否、
    人ならざるものも含めて、生けとし生きるものは自らの生、ほかのものたちの生
    を感じてそして繋がりあっていけるのだ。」

    「キラ星のような新人。やはり、とでもいうべき四季賞のレベルの高さを感じさせ
    られました。」

    「パラパラめくりながらめちゃくちゃセンス良い絵だなぁ、でも話はシュールでな
    んか不思議ちゃんなのかなぁ、なんてふやけた頭で考えて分かった気になってた
    自分のことが、「日下兄妹」読んだ後バールでぶん殴りたいほど恥ずかしくなり
    ました。この人はちゃんとマンガで伝えたいことがある人なのだな、と。短編
    集ってマンガの世界で軽んじられてる気がするので、ここらでいきなりこの作品
    が大賞とったらおもしろいだろうな、という個人的な思惑だか邪念だかもあった
    りします。でもいきなりメジャーになってほしくないな、なんていうインディー
    ズバンド好きな中学生みたいな思いもあったりして。大賞取れなかったら「売れ
    てほしいけどあんまり広まってほしくないマンガ・オブ・ザ・イヤー2009」
    を勝手に進呈したいと思います。」

    「今後何回も読み返すと思う。話も絵も素敵。」

    「巧みなネームと印象的なレイアウトで描かれる奇妙な物語たち。インスタント・
    クラシックの風格さえあるデビュー短編集。」

    「何も言うことない。ただ読んでほしい。それだけです。」

    「「星の恋人」、「ヴァイオライト」、「日下兄妹」、「虫と歌」、それに描き下
    ろしの「ひみつ」が含まれた市川春子の短編集。おとぎ話のような読後感。そし
    ておとぎ話が本来持っていたであろう残酷さも持ち合わせているところに好感が
    持てた。どの話もそれぞれ印象深いのだが、個人的な一押しは「日下兄妹」だ。
    肩を壊した高校球児日下雪輝と不思議な生きものとの奇妙な共同生活を描いた60
    ページ程度の短編。雪輝の肩が治るあたりからが秀逸で、喪失感とともに未来へ
    の希望も感じさせてくれる素晴らしい出来だった。読了後、その日はもう他のも
    のを読む気にはならなかった。それくらい満足した。」

    「ミニマルな表現があらゆる強度を備えうることの、最先端の可能性。」

    「ある一定の人の胸を撃ち抜く作品なのかなと思います。少なくとも、私は撃ち抜
    かれました。特に「日下兄妹」の兄の台詞、一度読んだだけで暗唱できるほど、
    心に焼きつきました。」

    「線と物語のはかなさがいとおしくて泣いた。大事すぎて読みきるのに3日かかり
    ました。」

    「わたし、この人の描く、草原というか野原が好き。表題の「虫と歌」からして、
    「虫と歌」からして、フード描写が細やかで、それぞれの食の嗜好が重大なヒン
    トになっているという構成。これはもう、フードまんが期待の新人。市川さん
    は、生粋のフードまんが家の系譜のひとといえましょう。作品の順番もいいで
    す。単編集は、なにげに掲載順番が大切だ。料理に「食べ合わせ」があるよう
    に、まんがには「読み合わせ」の善し悪しってありますから。表題にもなってい
    る、例の四季賞受賞作がいっとう最後って、並びがいい。ヴァイオライト と 
    虫と歌 は、特に号泣です。だけど、どのお話も善くって、いちばんを選べませ
    ん。そして、全体を通しての通底する流れがちゃんとあり、短編集としてただい
    ままで書きちらしていたのをページ合わせで集めたっていうレベルじゃないんで
    す。一巻物の傑作になっているのが、すごい。」

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