選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2017ノミネート作品

『金の国 水の国』岩本ナオ

  • 金の国 水の国 (フラワーコミックスアルファスペシャル)

  • 選考員コメント・1次選考

    「"世界を糾弾したり過激に問題提起するということではなく、世界への好意の示し方という方向から描いているから、むしろ沁みる。少女マンガ伝統の、1巻ものの大傑作。現在連載中の「マロニエ王国の七人の騎士」も愉しみです。年末のマンガランキングで1位だったのは知っていますが............
    「『もう評価されていることがあきらか』だからって、オレが『投票しなくていい』って事にはならない」です(3月のライオンの島田さんの台詞より改ざん)。"」

    「キャラクター造形、物語構成、世界観、全てが完璧な形で1つの作品になっている。姫、なんてかわいいんだ......!そして読後感が最高に幸せ!世界中の老若男女にすすめたいファンタジー。」

    「いろんな伏線が小気味よく回収され、読み終えた後にホッと幸せな気持ちになる漫画でした。」

    「"キャラクターの愛らしさ、作品全体の空気感が秀逸です。
    つかれた心に処方したい大人ファンタジー。"」

    「手に馴染む厚めの単行本。王国、姫様、城塞都市、尖塔。RPGのような中世風の設定。全1巻300ページ弱で完結する「おはなし」――。12巻に及ぶ長編になった前作『町でうわさの天狗の子』から一転、短編、中篇も冴える岩本ナオの引き出しの多さにやられた。舞台は商業集積地として栄華を極めるものの、水源の枯渇で干上がりつつあるA国と、自然と水には恵まれているが物資に乏しい小国のB国。隣国同士はよくある話で仲が悪い。あるとき、素朴で気丈、心根の優しいA国の姫サーラ(ぽっちゃり絵姿のかわいさは岩本ナオならでは)と、不景気で土木技師の仕事にあぶれたB国の気のいい青年ナランバヤルが偶然出会い、惹かれあうところから、隣り合うふたつの国の未来を巻き込んだストーリーが転がりだす......。国の威信って、権力って何だろう。立派な国ってどんな国なんだろう。政治って、国交って、公共事業って誰のためなんだろう? 平和ってどうして大事なんだろう。そんな問いかけを正面から大上段に振りかざすのではなく、読むうちに一人ひとりがそれぞれ考え、感じるようなさりげない仕掛けになっているのが品のいいエンターテインメント。なぜこのようなマンガが2014年から16年という3年間に描き紡がれたのかについて深読みするかどうかはさておき、満月の石橋での約束、足元すくむ隠し通路での告白などなど、見せ場の数々に触れれば、映画のような読後感に満足してページをとじること請け合いです。 」

    「1冊まるっとで語り終えられるサイズの物語が作者さんの真骨頂がより濃く出るので好んで読むのですが、いやぁ、これはいいおはなしを読んだなぁ、と、作家さんのやさしい気持ちにこころが洗浄されたような一冊でした。」

    「"近くて遠い隣国
    まるで日本とお隣の国のようではないだろうか!?
    文字の量や分厚さから途中で挫けそうになるかと思いきや、夢中で引き込まれます"」

    「"とても心が暖かくなる作品!
    好きです。"」

    「二国間の政略結婚という古典的な少女マンガの題材がもつ普遍的な魅力を、圧倒的にテクニカルな描写で引き出しています。」

    「絵本や童話を読んでいるような気持ちになります。
    隣同士の仲違いしている国の王女と王子が交換結婚するのに、互いに犬、猫を自国の王女、王子として交換するところから始まります。
    結局は、最終的に収まるところに収まる王道ストーリーなのですが、そこが岩本ナオワールド。
    本当にほっこりするのです。
    優しい気持ちになって、このままおとぎ話として読み聞かせしたいくらいです。」

    「2つの国の争いの話だが、登場人物たちの思惑と思い通りにいかないことが綾なし、心に響く物語となっている。国王を説得する場面や、互いを思いやる場面などじんわり心に効いてきます。家族全員で読める漫画。」

    選考員コメント・2次選考

    「岩本ナオ先生のマンガの上手さはハンパないです。」

    「敵対していた国と国の仲裁案として、一番美しい娘と一番賢い若者が出会い...。おとぎ話風の物語だからか、作品の中では登場人物の心理とかを深く掘っていないんです。でも、読者がこの物語を心のなかであたため続けると、いろんなことが得られる、そんな物語です。もちろん、得られるものは読む人それぞれで違うでしょう。あたため方によっても違うかもしれません。でも、必ずやあなたの心をあたため返してくれるはずです。あと、なんか、読んだ後になんとはなしに自分の薄汚さが恥ずかしくなるんです。落ち込むってほどじゃないんですけど、活を入れられた感じになります。」

    「「ロミオとジュリエット」的大人向け寓話。現代における少女マンガの王道を行く岩本ナオの最新作が、中世風のファンタジーで来るとは......と驚いた。でも、読みやすいのにディテールが掘り下げられ、のどかな雰囲気が流れるなか濃密なメッセージがある。トランプ化する世界ではすべての局面で二極化が進行する。でも! どんな世界でもこういう胆力と知力を持ち得ることが一人でも多くの読者に届けばいいな......。そんなふうに思わされる。困難に直面しても、あきらめず、知恵を絞り、やさしさを忘れることなく行動し、そして報われる。少なくとも僕らが生きるこの世界の土台はそうであってほしい。マンガ大賞の選考基準は「いま友達にすすめたいマンガ」だ。老若男女、すべての友達に押しつけてでも読ませたい。1巻完結だし。」

    「政略結婚の対象になった二人の想いや優しさが周りを巻き込んで世界を変えてゆく話です。人の愛や、想い、知恵は、あらゆるものを越え得るのかもしれないという希望を見せてくれます。どこかのんびりと優しくゆったり進む物語は、新しいおとぎ話のよう。読んでてとても心地よく、優しい気持ちになれる、美しい物語です。」

    「読み終わってからも深く印象を残す作品。特定の場面を幾度も思い起こした。爽やかな強さを感じることができる。」

    「ひとつの神話の誕生に、私たちは居合わせているのかもしれない。 それは、作品そのものが話題となって、世に広く名を知られて長く語り継がれるようになるといったことでもあるけれど、別にとある世界、とある国と国とが対立から和解、そして共に手を結んでの繁栄へと至った物語を、奇跡と認めてその経緯を一種の国作りの神話として語り伝えていくという、そんな始まりに居合わせているということでもある。  岩本ナオの『金の国水の国』(小学館)という漫画に描かれた物語は、たとえ架空であっても、たとえ漫画であってもそこに感銘があって教訓もあって、そして未来を示す教唆が見えるという意味で立派に神話としての価値を持つ。なおかつエンターテインメントとしての面白さも。 A国とB国という、隣り合わせている国が戦争をしたことを神様が見とがめ、仲裁に入っては交易で栄えながらも、砂と岩ばかりで水資源に不安なA国と、森と水に恵まれながらも、なかなか産業が育たず貧乏なままのB国との間で、それぞれに人をやりとりするよう言いつける。 内容は、A国からは1番美しい娘をB国に嫁にやり、B国からは1番賢い男をA国に婿にやれ、というもの。そしてA国では、国王の妾の末娘サーラがB国からの婿を迎えることになったけれど、着いた輿を開いたらそこに犬が寝ていた。そしてB国では、建築に通じた学者の息子ナランヤバルがA国からの嫁を迎えることになったけれど、こちらに来たのは猫だった。 A国の王もB国の族長も、神様の言いつけを守らなかったということ。それで罰が当たらないところに神様の存在が疑われるけれど、結果としてもたらされた事態を考えると、もしかしたら神様は、そうした先々まで想定して、王や族長の不敬を見逃していたのかもしれない。ともあれ犬を迎えたA国の姫、サーラは騒動になるし犬も殺されてしまうからと父王に告げ口をせず、犬といっしょに暮らし始める。ナランヤバルも気にせず猫と暮らし始める。 そんな2人が出会ってしまった。A国とB国の国境付近で、ルクマンと名付けた犬を連れて歩いていたらルクマンが山芋を掘った後の穴に落ちてしまった。困っていたところに通りがかったのがオドンチメグと名付けた猫を連れたナランヤバル。ルクマンを助けて親しくなったサーラから、家に来て助けてくれと頼まれ着いていって、そこで彼女がB国から婿を送られた姫だと知り、それが犬だったことも知る。 けれども黙ったまま、ナランヤバルはサーラの姉たちが直して欲しいと言っていた時計の修理に赴き、そこに入り浸る元役者で顔立ちの良さから登用されたらしい左大臣とも知り合いになって、2人で水が枯れかかっているA国をどうにかしようと計略を巡らせる。一方でサーラも、迷い込んだB国でナランヤバルの父と知り合うものの、ナランヤバルに妻がいると信じてしまう。 そこだけはちょっとすれ違った2人だったけれど、互いに才能を信じ優しさを信じていきながら、対立していたA国とB国の橋渡しをして2国が共に栄え続けるための道を探ろうとする。そして得られたひとつの奇跡。犬を送り猫を送った策略が、けれども心の綺麗な2人を会わせて国を近づけ平和と繁栄をもたらした。 だったらこれから嫁は猫を送り、婿は犬を送るべきかといった教訓にはならないけれど、対立していてもわかり合える部分はあるといった教訓は得られそう。上に立つ者たちが暗愚でも、A国の第一王女のように国の行く末を考え、有閑を装いながらも優れた者を集め、ナランヤバルのようなB国の人間にも行動を許して王を牽制し、民を救おうというものもいたりする。そんな思いをどう広げ、叶えさせるべきなのか。勇気というものの大切さを教えられる。 そんな姉も素晴らしいけれど、姉たちを動かしたサーラという姫の、誰よりも優しくて感性が豊かで開明的なキャラクターが良い。ちょっぴりふっくらしているけれどそこもまた愛らしい。ナランヤバルの方も風体は胡乱ならがも建築や土木に通じていて、左大臣らを図ってB国から水を引こうとし、妨害もはねのけて両国を立て直そうとする。才能は意外なところに眠っているのだなあと言うのも、物語から得られるひとつの教訓だ。 ここに至るどこかに、あるいはすべてに神様の思惑があったのか否か。神様に聞いてみなければ分からないことだけれど、そうやって生まれた平和を繁栄を見るにつけ、相争う国々がちょっとした優しさの交流から繁栄を得るという神話の雛形として、『金の国水の国』は語り継がれることになるのかもしれない。」

    「読後の興奮が3日たっての冷めないので、偉そうな文章になってしまってもそんな他意はないのを先にお断りしてかかせてもらいます。 もう!本当に久しぶりに「こんな漫画が読みたかったんだよー!」と叫びたくなるような良作でした。 私の感じていることですが、近年、漫画を読む環境は変わり電子コミックの冊数も増えさまざまなところで広告を見るようになりました。読める漫画の数が増えた。これはよいこと。 でもその代わりに、数多い中から手に取ってもらわねばとインパクト勝負のものも増えてると思うのです。衝撃的なワンカットやグロとかね。 それはそれで戦略の一つだけども、まとめサイトなどみるたびに出てくる広告に興味と同時におなかいっぱい感も感じてました。事実は小説より奇なりもとい、漫画のように奇妙な事件や悲しいことはいっぱいおこるこの現実。なのに、さらに漫画を読んで後味悪くなる必要はないのではと。 そんな思いでいる時にこの作品に出会えたのはとても幸せでした。 王道じゃんとか、いやいやお嬢さん都合よすぎるくらいいい人で、鈍感でしょうとか言うなかれ。 だって現実の世界じゃないもん。漫画の世界だもん。未来の子孫がロボット連れてきたり、空を飛んだり、偶然に出会った敵国の男女が運命的な恋におちて、幸せな世界を作ることくらい平気で起こる世界なんだぜ~。」

    「この賞の「すすめたくなるマンガ」というコンセプトにこんなにも合致する作品はない。絵、キャラクター、お話、全部そろってパーフェクトな上に、全1巻で一気に読めるし、手元に置いておけるし、パッケージングとしてもすばらしい!本当に、この幸せな読後を多くの人に味わってほしい。」

    「今年はずいぶん迷った年でした。どれもこれもおもしろい。でも、その中でいちばん、友だちに勧めたいマンガがこの『金の国水の国』でした。いじわるな姉姫に、優しい妹姫、傲慢な父王に、悪巧みをする大臣......と、おとぎ話によく出てくるモチーフが勢揃いしながらも、ファンタジーのお約束を軽々と飛び越える。たった一巻で完結するとは思えないぐらいの世界観で楽しませてくれました。単純な善か悪かではなく、第三の道を示唆してくれる勇気の書でもあります。」

    「童話のおとぎ話から抜け出してきたようなお話で、いつまでも何度も読みたくなる。読んでいてほっこりすします。」

    「単巻できれいにまとまっていて完成度が高く、楽しく読める作品。ぽっちゃり系なヒロインがかわいいです。」

    「久しぶりに心洗われる素敵な漫画を読んだなあ、という幸せな気持ちでいっぱいです。ほのぼのと温かく、それでいて冒険やスリルもあり。すさんだ心に沁みいるような、ひとの心の優しさや美しさを描いた、まさにおとぎ話のような漫画でした。」

    「たった1巻でこの内容の充実度は本当にすごいと思います。少女マンガのようでもあり、少年マンガのようでもあり、歴史モノでもあり、恋愛モノでもある。ひとりでも多くの人に読んで欲しいです(学校の道徳の教科書とかコレでいい!)。そして、現実の世界がいまいろいろと大変なときに、ふつうの、というか、わりと地味な(最初からヒーロー&ヒロインタイプじゃない)人たちが活躍して世界をよりよい方向に変えていくっていう筋書に触れて、勇気を貰いました。あまりにも素直な感想になっちゃうんですが、わたしもあんまり世界に絶望しすぎずがんばって生きてこう...って思いました。」

    「1巻ものの傑作が賞を取れる機会はなかなかない。続いてこそおもしろいマンガであるという風潮もあるし、それも間違いなくマンガの持つひとつの側面だと思います。だけどやっぱり、1巻完結で完璧におもしろかったです。岩本先生の描く男子の関係性がすごく好きです。しっかり者の黒髪男子と、天然でちょっと浮世離れしたイケメン白髪男子の組み合わせは、岩本作品に繰り返し登場しますが、むしろこれからも登場してほしい!と切望。この関係性を突き詰めてほしいです。あとヒロインの造形が、すごい! こんなぽっちゃり太った娘って......本当の「作画的冒険」とはこういうことだと思います。こういう容貌をヒロインに据えて、編集部からオーケーが出て、読者に支持されるって「画力」があるってことだと思うんです。もちろんストーリーテラーでもあるし、キャラ作りが素晴らしいってとこでしよね。ようは作者にマンガ力があるということだと感じます。」

    「岩本ナオ版『アラビアンナイト』って感じの作品。この先生の描く人間は、たとえ悪い役ですらあたたかみを感じる。なんという才能、なんという傑作。ぐっとくるセリフ目白押し。疲れてる人はこういうのを読むといいと思います、やさしくなれそうな気がする。」

    「美しい世界観に浸れる作品。でも、ファンタジックだけど現実的な、なんとも不思議な気持ちで作品を読みました。現実から逃げて(笑)、美しい世界にただ浸りたいだけの時にもぴったりですー。」

    「読んでいる途中で「最終話」って書いてある扉絵が出てきたので、エッもう終わり!?まだまだ読みたい!って思って残りのページ数の厚みを確かめました。クライマックスのシーンでは「これは最高のプロポーズってやつじゃないのか(いろんな意味で)」って思って泣きました。他にも素敵なシーンがたくさんあって、いっぱい泣きました。ライララさんがすごく気になる。グッズになったら買うかもしれない。」

    「いろんな伏線が回収され、最後には全てが丸く収まってスッキリしました。夢のある物語が好きです。」

    「歴代ノミネート作の中でも、屈指の純愛物語ではなかろうか。具体的な言葉は無くとも、相手を思いやる気持ちが痛いほど感じられる。これはそういう物語。そしてもう一つ。ほんの少し見方を変えるだけで、世界は変わるのだと教えてくれる。砂と岩の国が、金の国に変わるのだ。」

    「ああ、これはとても大切なマンガになるな、と物語の序盤でもう嬉しくなりながら読み進めました。その序盤、主人公が「(あなたの国は)キレイっスね」と告げるシーン、受け手のキャラの表情の変化にシビレてしまって5分くらいそのページを行ったり来たりしてしまいました。」

    「絵も物語もとても可愛らしく、最初から最後までずっとほわほわとした温かい雰囲気に包まれている作品です。好感の持てる主人公とヒロインに、「こうなったらいいな」と思う展開がきちんと用意されていて、読み終えた後、「めでたしめでたし」と深く頷きながら本を閉じていました。」

    「ユーモアや現実味を交えたファンタジー世界と愛すべき人々の造型が秀逸。多彩な楽しさをコンパクトにまとめた正真正銘の快作。」

    「何とも心が温かくなった大好きな作品!久しぶりにいい涙が出ました。」

    「たった一冊とは思えない完成された一冊。おとぎの国の心躍る冒険譚が力強く描き切られていました。読み応えのある作品。」

    「開始2ページ目の見開きで「なるほど、このマンガはハッピーエンドで終わるのだな」ということがわかる。そこへ至る過程。予兆。あるべきものがあるべきところに収まるダイナミズム。それが、美しい、と思えた。どっとはらい。とっぴんぱらりのぷう。」

    「1巻完結作品大好き人間としては選ばざるを得ない!宝物のような物語。何回も開けて眺めて憧れの溜息をつく、そんな作品です。」

▲ ページの先頭へもどる