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マンガ大賞2016一次選考作品

『弟の夫』田亀源五郎


弟の夫(1) (アクションコミックス(月刊アクション))

「娘と二人暮らしをしている男が、双子の弟でカナダで同性婚した"弟の夫"と生活する中で、少しずつ凝り固まった考えを変化させていく物語。ホームドラマとしての切なさと暖かさ、文化の違いによるコミカルさと同時に、偏見や思い込みへの押しつけがましくない説得がある。家族がゲイであることに戸惑い、男女カップル間では気にならないことまで考えてしまう主人公・ヤイチの心を、幼くて純真な娘・カナの問いと、わかりやすい日本語で応じる"弟の夫"・マイクの答えが、次第に解していってくれる。また、偏見・固定概念へのアプローチが、セクシャリティの問題にとどまらないところもすごくいい。マイクを初めて見たカナが「外人だァ」と言うと、かれは笑顔のまま「ガイジンじゃありません、カナダ人」と訂正する。また、亡き親のあとを継いで不動産で収入を得ていること(他の多くの同世代男性のように外に働きに出ていないこと)を「仕事って感じじゃない」と後ろめたく思っているヤイチに対して、マイクは「毎日ゴハン作ってソウジしてセンタクして、それ立派なお仕事でしょ?」と笑う。すべてに対して、「北風と太陽」の「太陽」方式でものごとが進む。マイクは相手の無知や偏見を怒ったり嘆いたりするのではなく、諦めずにやさしい言葉で諭して徐々に心を揺り動かしていく。カナにしてもその同級生にしても、子供だからと言って現実はここまで柔軟で素直に受け入れてくれるばかりではないと思う。けれど、その現実を長い間戦い続けている田亀源五郎が描くこの優しい世界を、一人でも多くの人に読んでほしいと願う。」

「やはりこの作家がオーバーグラウンドに出てきたことに大きな意味があると思います。話題先行型の作品ですが、本当に繊細で優しい世界観。素晴らしいです。」