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マンガ大賞2015一次選考作品

『五色の舟』近藤ようこ


五色の舟 (ビームコミックス)

「ひとつの軸線に、異形の者たちが日々を精一杯に、懸命に生きていく姿が描かれる。女形として評判を取りながらも、その道から足を洗わざるを得なかった男に、小さな体にとてつもない力を秘めた少年に、背骨が歪んでかしいだ体を持った少女に、訳あって親から柳行李に入れられたまま捨てられた少年と、そして新しく加わった見た目は普通の女性が、川縁に浮かんだ舟に家族のように暮らしながら、四方を行脚し、その身体に備わったそれぞれの特質を売りにして、観客から見料を頂く。すなわち見世物の一座。奇異な目で見られ、日常の暮らしから遠ざけられながらも、虐げられることなく、見下されもしないで生きていられるその状況が、あらゆる異質を排除し、見下して虐げがちな現代にあって、どうにも愛おしいく映る。生きるに辛い時代だったからこその、誰もが生きていられることに飢えてた、その感情が連帯を生んだのだとしても、今また同じように不穏な時代に生きながら、誰かを見下げて生きていなけれ、ば平静が保てない人の心の荒み何なのかと考えさせられる。そして、もうひとつの軸線に、あり得たかもしれない可能性への憧憬が描かれる。"くだん"と呼ばれる謎の生き物を媒介にして、あちらへと、或いはこちらへと切り替わった人生が幸福であればあるほど、捨ててきた人生の辿った悲惨が浮かんで身を苛む。これで良かったのか。逃げずに今を良く変えるべきではなかったのか。そう感じさせられる。大戦末期というひとつの時代を舞台に、SF的な設定を交えつつ、異形の愛が通い交わされる暖かさを描き、支え合い生きていく美しさを描いた物語。原作の異端を、柔らかくて丹誠な近藤ようこの筆が、巧みに膨らませてそう描き切った、文字通りに傑出した、歴史に刻まれるべき漫画作品だ。」