選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2019一次選考作品

『官能先生』吉田基已

  • 官能先生(2) (イブニングKC)

  • 「四十歳の小説家が若き女性に心奪われ、初恋のようにしどろもどろとして恋焦がれていくのが微笑ましい。暖かなタッチの絵がとても心地よく、文学作品を読んでいるような気持になります。 」

    「舞台は路面電車が街なかを走るたぶん昭和30年代の東京。出版社に勤める40代の兼業作家と、彼が行きつけの喫茶店で働く22歳のウェイトレスの、じれったい恋模様をたっぷりの心情描写をまじえて描く。主人公の六朗は女性の内面を書くのが得意な純文学作家で、ポルノ小説の執筆依頼を受けるどうかで悩んでいるという設定。そういう小説を書いているだけに、相手の気持ちの変化をじっくり観察し、感じ、想像し、時にふらちな妄想をする。その対象となるヒロイン・雪乃とは、祭りの夜にあるきっかけで知り合う。時代背景もあって互いになかなか好意を伝えられない中、ひとりの女の子がじんわり、上気しながら、時には嫉妬に身もだえるように異性への恋心を募らせていく過程はドキドキもの。お子様には分からない大人のマンガだ。絵がとてもいい。スクリーントーンをあまり使わないタッチは古い映画のような空気が感じられ、猫目(重ねられているイメージはキツネだけど)の雪乃のくるくる変わる表情からは、まさにマンガを読む「官能」が味わえる。後れ毛の艶やかな襟足、ふっくらとした耳たぶ、伏せた長い睫毛、潤んだ瞳、珈琲カップを置く指先、ストッキングのかかと、ピンヒールまで、男性の視点を映したフェティッシュな(でも品の良い)描写はコマを追う楽しみになる。ゆったりめのスーツ、和装、下駄、商店街、黒電話、原稿用紙に万年筆、煙草といった昭和の文物の書き込みもしみじみと良い雰囲気。」

▲ ページの先頭へもどる