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マンガ大賞2018一次選考作品

『きみを死なせないための物語』吟 鳥子


きみを死なせないための物語(2)(ボニータ・コミックス)

「萩尾望都の『スター・レッド』があり、竹宮恵子の『地球へ...』があり、山田ミネコの『最終戦争』シリーズがあり、水樹和佳子の『樹魔・伝説』があり佐藤史生の『夢見る惑星』があったあの時代。宇宙時代の人類の未来などが壮大なスケールで描かれた少女漫画のSFに触れた者たちが、今またF少女漫画の波動を感じようとしている。人類と宇宙の未来を描き、生きる厳しさと愛する大切さを感じさせる物語として、吟鳥子が描き、中澤泉沙が作画協力をした『きみを死なせないための物語』のことだ。何かの理由あって住めなくなった地球を脱した人類は、コクーンと呼ばれる宇宙に浮かぶ巨大な都市に暮らすようになっていた。そんな人類から生まれてきたのがネオテニイと呼ばれる新人類たちで、宇宙に適応したためか寿命が極端に長く、中には数百年を生きるものもいるという。そのせいか成長も人類に比べてゆっくりしていて、20歳くらいになっても見かけは子供のまま。それでいて早熟なのか頭も良くて、早いうちからいろいろと発明や発見をしてコクーンの科学や経済の発展にも貢献しているらしい。それだけにネオテニイは貴重な種族としてコクーンの中で優遇されており、普通の人類たちから強い関心を寄せられている。物語にはそんなネオテニイの4人が主要なキャラクターとして登場する。アラタとシーザーとルイは男子でターラは女子。そのうちの3人が3世代目という中にあって、アラタは始祖ともいえるネオテニイから直系の4世代目に当たっていて、周囲からかけられる関心もいっそう高かったりしていた。4人は出会って最初は幼なじみに近い第一パートナーという関係を結び、そして長じてキス程度のちょっとした性的接触も許されるだろう第二パートナーになるかどうかといった段階に来ている。優れた遺伝子の持ち主たちを結びつけ、優れた子孫を残したいという思惑もあってか、互いを意識するよな状況に置かれる中で、ターラやアラタ、シーザーは心を揺らし、誰が誰を好きなのかといったすれ違いのような関係も生まれ始める。そうした中にあってひとり孤高を行くのが芸術家気質のルイで、監視カメラの目も届かない京都コクーンにある歓楽街で出会った祇園という名の、ダフネー症という病で16歳までしか生きられない少女に惹かれてしまったあたりから、アラタたちの運命が大きく揺れ動き始める。そして迎えたある事態。そこで起こったある事件がアラタたちに決断させる。きみを死なせたいことを。続く第2巻。16年が経ったコクーンで、Gg8(ジジ)とう名のダフネーの少女がアラタになつき、ルイとダフネーの事件の後、アラタと第2パートナーになったターラにもなついて2人の間で日々を過ごしている。もっとも、アラタはジジとより深い接触は持とうとしないで曖昧な日々を過ごしている。ルイはシーザーと第2パートナーの契約を結びながらも祇園を思い続けている。16年前の衝撃的な経験は、アラタたちの心に様々な影響を刻んだ。だからといって留まっていることは許されないのが、どこにもいけないコクーンでの暮らし。成果が出せないネオテニイに居場所はない。普通の人間も年をとればリストインの身となって何処かへと誘われる。いわんや何の実績も残さないまま16歳で死ぬダフネーをや。天井人の登場によってコクーンの決して楽園ではない、楽園ではあり得ない苛烈さが見えてきて希望を削ぐ。いずれジジにも訪れるだろう、もしかしたら明日にも訪れるかもしれないリストインの時を思ってアラタの迷いが振り払われて、きみのための物語がきみを死なせないための物語へと歩を進める。その先、いったい何が起こるのか。どうして地球から人類は離れざるを得ず、それでいて遠くへと人類が向かおうとする話が禁忌とされている奇妙な状況で、人類の未来に不穏が漂う。それを突破する力を決断したアラタが見せるのか否か。続く展開への興味が尽きない。」